赤城雨風と物語の風

バカバカしくて苛烈な純文学創作

死にたい季節に

美しい冬の彼女に。

 

 

17歳の私は、死にたかった。

不幸なことに、友人も家族も勉強も運動も大過なくこなせた。

お金も人付き合いも勉強も大切だと知っていた。

だからこそ、死にたかった。

 

感情を分からず持ち合わせず。

だから、学んだ。勉強、勉強。

ただただ、必死の道化。猪突猛進。

拍手が増えれば増えるほど、観客が増えれば増えるほど、虚が広がっていく。

クッキー缶は何時しか空に。

 

桐の化粧箱が欲しかった。

唐紅の渋い奴で宝石なんかひとつも着いていない奴が。

彼女は気高く綺麗で大人で。

クッキー缶は恋焦がれり。

恋焦がれて、投げ捨てた。

箱は壊れて戻らない。

私がやったんだ。

煙草と古本の匂いが残ったの。

 

煙草は虚しい。

古本は冷たい。

孤独を製造、癒しはしない。

彼女は死んだ。

 

胸に子宮に五臓六腑に、立ち退き勧告。

あるべき姿に還りなさい。

身体を肉へと返りなさい。

耳目が無いから分かりません?

あらら、これじゃあ家主、失格だ。

 

私は、死ななかった。

彼の人々は、正しい。

人は神に取って代わった。

救済は内から。

 

死に至る苦しみは、鈍く狡猾だ。

首から下に、麻布団の重さでカシミアが帳を下ろす。

色は褪せ、音はズレる。

さながらトーキーだった。

そうであれば良かったのに。

現実は日々は世界は、字面よりも穏やかで画面よりも苛烈だ。

 

真の苦しみは閉じ独立し循環する。

何時か抜けると言われても、その何時かが遠くて終わりは見えなくて。

堕ちてゆく程、醜い。

 

素敵な本に出会った。

泣いたら寿命が一日延びた。

次の日、死のうと思った。

 

身支度を整え、遺書を書いた。

ビルの屋上に立った。

刃物を首筋に当てた。

鉤の縄に首を掛けた。

黄色い線の外側に立った。

それでも、死ななかった。

徒労に継ぐ徒労。徒労又徒労。

感慨も諦観も起伏も欠けていた。

死ぬことすらままならなかった。

それすら誰にも悟らせず。

 

眠れない日々が続く。

切れ切れの不定形の微睡みが辛うじてあった。

 

 

今はまだ断片だけど、何時か本にしてあげる。評価されなくても、売れなくても、自費出版でも、必ず。今はまだ書けなくて整理できなくて凍える私だけど、遠くない未来にきちんと貴方の物語を紡ぐよ。

今年も冬が終わるね。