赤城雨風と物語の風

バカバカしくて苛烈な純文学創作

「ドクショカ」

 
 諸君!
 今日は忙しい中、私の「ノーベル生物学賞受賞記念講演会」に来てくれてありがとう。
このような機会に恵まれ、身に余る光栄だ。
今回のことは、私にとっても、寝耳に水どころの騒ぎでは無かった。
まさかとは思うが、私がノーベル生物学賞を受賞すると予期したものはおらんよな?
がはは。
講演会をするなど初めてのことなのでな。肩ひじ張らずに、無作法を通させていただこう。がはは。

 

 さて、私に話せることといえば、やはり”ドクショカ”だけであろう。
このドクショカについての研究が評価され、こんな講演会をさせられているのだが。がはは。
とかく、話すとしよう。
 殆どの者が今回の騒ぎでしたように、ドクショカは、非常に稀有な生物だ。
 先ず、その個体数が少なく、生息地が限られているのだ。学校で言えば、一クラスに一人いるかいないか程度で、社会に出るともっと少ないだろう。
諸君らは、電車の車内をつぶさに観察したことのあるものは、いるだろうか?その中でドクショカを発見したことのあるものは?皆無であろう。
電車の車内には、もっぱら四角い電子機器を指でなでる、スマート=ホン=ゾンビが生息しているが、このことはまた別の機会に話そう。

 兎に角、我々が日常生活の中でドクショカを見かけることはまれだ。


 では、どこに行けばドクショカに会うことができるだろうか?
ドクショカは、聖地ジンボウーチョーをはじめ、HONNYAや雷(らい)武(ぶ)羅(ら)理(り)という場所には、特別多く分布している。国外のドクショカについても、国内と大差はない。書物が多い場所に集まるの傾向があるのだ。
詳しく知りたい者は、『ドクショカの生態(デタ=ラメー 著/四月フール書房)』を読みたまえ。

    生息地が偏る理由は、明白で、ドクショカの奇妙な生態に関係がある。
ドクショカは、ほ乳類であり人と近似した容貌を有しているが、その実、両者の間にはかなりの距離があるのだ。

 

 続いてドクショカの珍しい生態を話すとしよう。先ほど言ったように、ドクショカと人間の差異は大きい。専門用語でいうところの、「京極夏彦の文庫一冊分」だ。専門家でない諸君に、わかりやすく説明すると、「死に至る」程度である。イメージできたであろう?
 
 では、なぜ書物の多い場所に集まるかというと、書物があれらの動力源であるからだ。

ドクショカは、所謂食事による栄養摂取をあまり必要としない。まったくと言ってよいほど必要としない。個体にもよるが、往々にして、ドクショカはやせ細り青白い顔をしており、その為に我々に比べると短命である。

暫し、自死する個体も見受けられるが、多き謎のうちの一つだ。

 

 書物により生き永らえるドクショカは、当然ながら、書物の在り方によって変化してきた。文字が岩に刻まれたことで誕生し、活版印刷技術の発展により飛躍的に数を増したものの、マンガ=ジャンプやアニメ=エロゲーなどの生物種が台頭してきた結果、大幅にその数を減らした。
体重が重く体も大きいドクショカ=ペーパーが衰退する一方、変異種で小型軽量のドクショカ=ペーパーホワイトが勢力を増してきてはいるものの、絶滅が危ぶまれているのだ。

 

 また、ドクショカの特徴として、集団を形成する場合がある。主に好む書物の種類によって大別されるのだが、細かな区別は、はなはだ困難である。各個体の好みがてんでバラバラなのだ。
    一応、各集団はコロニーを持ち特定の日時に、各信仰対象を悼む儀式が行われる。例えば、ピーチ忌やカタツムリ忌などがある。

    しかし、コロニー間やコロニー内部での諍いが絶えず、時には血で血を洗う凄惨な事態になることもある。どうしようもない生き物だ
私の著書『読むという生き物(積ん読し過ぎに気を付けて 書院)』に、より詳しいことを記載してある。ぜひ購入してくれ。中古で買ってくれるなよ。印税が、はいらないからな。
がはは。

 

 さて、ここまで長々と話してきたが、最も大事なことを伝えよう。
    ドクショカは、単純で、アホで、変なこだわりが強くて、財布の紐が緩く、収納スペースはなくなり、転居の際に死ぬほど苦労し、理解されず、蔑まれ、そして絶滅の危機にある。
    しかし、あれらはあれらで、経済を回し、文字を繋ぎ、私たちに貢献しているのだ。
    そして、あれらが絶滅したとき、我々は、今までに築いてきた文明や歴史を失う。

決定的な敗北がもたらされる。
そんなことは許されない!許してよいはずがない!
    では、我々に何ができるのか?非常にシンプル策を一つ、提示しておこう。
我々が無理に、ドクショカになる必要は、まったく無い。
諸君!書店で本を買い、読め!
我々が我々である為に、ドクショカがドクショカである為に!


それでは、失敬。